「電子帳簿保存法は2024年に義務化されたと聞いたけれど、保育所しか運営していないうちの法人も対象になるのだろうか」——このような疑問を持つ経理担当者の方は少なくありません。特に経理専任者を置かず、保育士や事務担当が会計を兼務している施設では、対応の優先順位をどう考えればよいか分かりにくいテーマです。
このページでは、国税庁の公表資料をもとに、社会福祉法人・保育所が電子帳簿保存法の対象になるかどうかの考え方と、2026年9月時点の猶予措置の内容、経理専任者がいなくても進められる実務対応の順序を整理します。
電子帳簿保存法は、国税関係の帳簿・書類を電子データで保存する際のルールを定めた法律です。中でも実務上のインパクトが大きいのが「電子取引データ保存」の義務化で、メールやWebサイトを通じてやり取りした請求書・領収書等は、紙に出力して保存するのではなく、電子データのまま保存することが原則になりました。
この義務化には経過措置が設けられており、令和4年1月1日から令和5年12月31日までの取引については、出力書面の保存のみでも対応が認められる「宥恕(ゆうじょ)措置」があります。これは「一定の事情があれば、大目に見る」という措置のことです。この措置は期限の到来(令和5年12月31日)をもってすでに終了しており、現在の実務で関係してくるのは、令和6年1月1日以後の取引に適用される「猶予措置」です。
電子帳簿保存法第7条が定める電子取引データ保存の義務は、所得税(源泉徴収に係るものを除く)および法人税に係る保存義務者を対象としています(国税庁「電子帳簿保存法一問一答」等より)。
ここで実務上の分かれ目になるのが、法人税の申告義務の有無です。国税庁が公表している文書回答事例では、収益事業を行い法人税の申告義務がある公益法人等(社会福祉法人を含む)は、収益事業に限らず法人の全事業の取引について電子取引データの保存義務が及ぶとの整理が示されています。
一方で、収益事業を行わず保育所の運営のみを行っている社会福祉法人(法人税の申告義務がない法人)が、電子帳簿保存法第7条の保存義務者に直接該当するかどうかを明確に述べた公的な見解は、今回確認した範囲では見当たりませんでした。該当するかどうかの最終判断は、顧問税理士や所轄の税務署にご確認いただくことをおすすめします。
令和6年1月1日以後の電子取引データについては、次の2つの要件をどちらも満たす場合に、検索機能の確保などの本来の保存要件を満たさなくても電子データの保存が認められる「猶予措置」が適用されます(国税庁「電子帳簿保存法一問一答【電子取引関係】」より)。
この猶予措置は事前に税務署へ申請する必要はなく、また2026年9月時点で適用期限の定めは示されていません。「システム整備が間に合わない」といった事情も「相当の理由」に含まれ得るとされていますが、猶予措置はあくまで経過的な対応であり、電子データそのものの保存自体は必要になる点に注意してください。
保育所の日常業務の中では、次のようなやり取りが電子取引データ保存の対象になり得ます。
逆に、紙で受け取った請求書や領収書をそのままファイリングしている場合は、従来どおり紙のまま保存して問題ありません。電子帳簿保存法が対象とするのは、あくまで最初から電子データでやり取りされた取引です。
経理専任者を置かず、保育士や事務担当が会計を兼務している施設では、次のような順序で無理なく対応を進めることができます。
電子取引データ保存に対応していない場合、青色申告の承認取消しや、経費として認めてもらえなくなる(損金不算入)といった措置につながる可能性が制度上はありますが、国税庁は書面等で取引内容が確認できる場合には直ちに厳格な措置を取らない運用を示しています。なお、厚生労働省の社会福祉法人指導監査ガイドラインには、電子帳簿保存法・電子取引データ保存に関する直接の規定は見当たりませんでした。指導監査での指摘は、経理規程の整備状況や、領収書・請求書などの証拠書類(証憑)の管理が適正かどうかといった観点から行われるものであり、電子帳簿保存法とは別の枠組みで運用されている点を押さえておくとよいでしょう。証憑管理・経理規程については、既存記事もあわせてご覧ください。
電子帳簿保存法への対応は、法人税の申告義務の有無によって位置づけが変わるテーマです。ご自身の法人が直接の保存義務者に該当するかどうかにかかわらず、電子取引データを紙に出力して破棄する運用は避け、データのまま保存しておくことが、将来的な制度変更にも備えた無理のない対応といえます。
日々の領収書・請求書等を電子データのまま取り込み、検索・保存できる会計システムを選ぶことも、事務負担を増やさずに対応する方法のひとつです。システム選びの視点は、既存記事でも紹介していますので、あわせてご参考にしてください。
本メディアでは、「保育・介護・障がい者施設」それぞれのの課題を解決するおすすめの会計システムを紹介しています。システム選びの比較・検討にお役立てください。


