認可保育所に支払われる委託費には使途制限がありますが、一定の要件を満たせば弾力運用が認められ、段階に応じて使える範囲が拡大します。
本記事では、3つの段階ごとの要件、支払資金残高の30パーセント基準、積立資産の設定・取崩し、超過時の措置を紹介します。
委託費は、認可保育所を運営する事業に充てるために市町村から支払われる資金です。保育所を経営する事業に係る経費に充当する主要な収入として位置づけられています。
施設型給付費は子ども・子育て支援新制度のもとで創設された給付で、委託費とは使途や精算のルールが異なるものです。
委託費の弾力運用は、適正な保育所運営が確保されていることを前提として認められるものです。資金に余裕があることだけを理由に、自由に使えるわけではありません。
委託費は人件費・事業費・管理費の3区分に分かれ、区分間の流用には制限が設けられています。公費を原資とする資金の性質上、本来の目的以外に流用されることを防ぐためです。
各区分には、保育所運営に欠かせない費目がそれぞれ定められています。人件費には職員の給与や賞与、法定福利費を含み、事業費は給食費や保育材料費など、利用者に直接関わる経費です。管理費は事務費や修繕費など、施設の維持管理に必要な経費が該当します。
区分をまたぐ流用が原則として制限されている理由は、特定の経費を削減して別の目的に充てることを防ぐためです。たとえば、人件費を削って管理費に回すような運用が常態化すれば、職員の処遇悪化を招き、結果として保育の質の低下につながりかねません。
区分をまたぐ流用が原則制限されている背景を理解し、各区分が本来果たすべき役割を保つことが、適正な施設運営の基本となります。
| 区分 | 主な内容 | 実務上の注意点 |
|---|---|---|
| 人件費 | 職員の給与・賞与・法定福利費 | 処遇改善等加算との関係 |
| 事業費 | 給食費・保育材料費など | 利用者に直接関わる経費 |
| 管理費 | 事務費・修繕費など | 法人本部経費との按分 |
福利厚生費や会議費、施設外活動の交通費などは、保育所の運営に必要な支出かどうかを個別の確認が必要です。また、複数施設を運営する法人の本部経費を負担する場合も、適切な基準による按分がされます。
具体的な取扱いが自治体によって異なる場合もあるため、自己判断で処理せず、所轄庁の通知を必ず確認してください。
弾力運用は3つの段階に分かれ、満たした要件の段階に応じて使える範囲が広がります。段階を踏むごとに、より柔軟な資金活用が可能です。
第一段階では、給与に関する規程の整備や適正な給与水準の維持、定員・職員配置に関する要件など、通知に定められた条件を満たすことが求められます。要件を満たしているかどうかの判定は、所轄庁が発行する通知別紙のチェックリストなどを確認し、自己点検を行うのが基本です。
要件を満たすと、人件費・事業費・管理費の区分にかかわらず委託費を充当できるようになるほか、各種積立資産への積立も可能です。
第二段階では、第一段階の要件に加え、通知の別表に掲げられた対象事業を実施していることなどが求められます。要件を満たすと、処遇改善等加算の基礎分に相当する額の範囲内で、同一設置者が運営する他の保育所等の施設整備費や賃借料などに充てることができる仕組みです。
第三段階の適用には、第二段階までの要件に加え、さらなる経営基盤の安定性を示す追加要件が求められます。当期末支払資金残高が適正な水準に保たれていることや、過去の監査において重大な指摘事項がないことなどが判断基準です。
第三段階の要件を満たすと、当該年度の委託費(改善要件分を除く)の3か月分を上限として、同一設置者が運営する他の保育所等や子育て支援事業の施設整備費・賃借料・借入金償還などに充当できるようになります。第二段階の「基礎分相当額」の枠とは異なり、第三段階では委託費全体の3か月分という、より広い充当範囲が認められるのが特徴です。
一方、前期末支払資金残高の取崩しについては、この3か月分の上限とは別のルールで管理されるものです。取崩し額の合計が事業活動収入計(予算額)の3パーセント以下である場合は、一定の要件のもとで事前協議を省略できる取扱いがあります。
3パーセントを超える場合は、所轄庁との事前協議・承認が必要となる場合があるため、自治体の取扱いの確認が必要です。
| 段階 | 主な追加要件 | できるようになること |
|---|---|---|
| 第一段階 | 給与規程の整備など | 区分間の流用、各種積立資産への積立 |
| 第二段階 | 別表に掲げる事業の実施 | 処遇改善等加算の基礎分相当額の範囲内で、他の保育所等の施設整備費・賃借料などへの充当 |
| 第三段階 | 当期末残高の適正管理・重大な指摘がないこと | 委託費(改善要件分を除く)の3か月分を上限とした、他の保育所等や子育て支援事業への充当 |
※通知では多くの自治体で同様の基準を採用していますが、要件には自治体差があるため、最終的には所轄庁の通知を必ず確認してください。
当期末支払資金残高は、当該年度の委託費収入の30パーセント以下に抑えることが求められます。資金を過度に溜め込まず、現在の保育の質向上のために適切に還元するためのルールです。
支払資金残高とは、流動資産と流動負債の差額から一定の項目を除いた金額です。3月末の決算時に30パーセントを超える場合は、超過額について長期的な計画を立て、使途を定めて積立資産に積み立てるなど、通知に沿った対応が必要になります。
前期末支払資金残高の取崩し額については、事業活動収入計(予算額)の3パーセント以下であれば、一定の要件のもとで事前協議を省略できる取扱いがあります。また、委託費に係る当該年度の各種積立資産への積立支出と当期資金収支差額合計が、事業活動収入計(決算額)の5パーセントを上回る場合は、収支計算分析表の提出が必要です※2。
当期末支払資金残高が委託費収入の30パーセントを2年連続で超えた場合、超過額が解消されるまでの間、処遇改善等加算の基礎分全額について加算が停止される措置があります※3。残高は年度末だけでなく、日頃から確認することが重要です。
積立資産は、使途を定めて適切な手続きを経たうえで設定します。積立金と積立資産は貸借対照表上で対応する関係にあり、目的ごとの資金を区分して管理します。
人件費積立資産は将来の人件費、修繕積立資産は修繕、備品等購入積立資産は備品等の購入など、それぞれの目的に応じて活用します。目的外で使用する場合は、所轄庁との協議や理事会承認、指定様式の提出などが必要となる場合があります。必要な手続きや提出期限は自治体によって異なるため、所轄庁の通知を確認してください※4。
なお、国庫補助金等特別積立金は、ここで扱う積立資産とは性質が異なる別の会計科目です。
委託費は、使途区分ごとの集計と支払資金残高の把握を月次で行える体制を整えることが重要です。会計データから区分ごとの集計を確認でき、積立資産の積立・取崩し履歴を追える状態にすると管理しやすくなります。
また、支払資金残高を月次で確認できれば、年度末に基準超過へ気づく事態を避けやすくなります。拠点区分・サービス区分の管理や、前期末との比較ができることも確認しておきたいポイントです。
手作業での残高管理や複雑な帳票作成に課題を感じている場合は、保育所会計に対応した会計システムの導入を検討するのも一つの方法です。
A. 長期的な計画を策定し、使途を定めて積立資産への積立などの対応が必要になります。2年連続で超過した場合は、超過額が解消されるまでの間、加算が停止される措置が取られます。
A. 国の通知が基礎であるため大枠は共通していますが、具体的な運用方針や協議・報告のための提出様式は自治体で異なります。そのため、必ず所轄庁への確認が必要になります。
A. 所轄庁との協議と、指定された様式の提出が必要になります。手続きを完了させるため、提出期限の目安は使用予定日の概ね2週間前とされているケースが一般的です。
認可保育所の委託費は使途が定められていますが、要件を満たすことで、段階に応じて積立や対象事業への支出などが可能になります。当期末支払資金残高には30パーセント基準があるため、月次で残高を確認し、超過が見込まれる場合は早めに積立や協議などの対応を検討することが重要です。
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