保育園の経理担当になったばかりの方が最初につまずきやすいのが「勘定科目」の多さと独特な名称です。社会福祉法人の会計は一般的な企業会計とは異なる独自のルールがあり、保育園ならではの科目も数多く存在します。
このページでは、社会福祉法人会計基準における勘定科目の基本的な仕組みから、保育園で特によく使う収入・支出科目、初心者がつまずきやすいポイントまでを一つひとつ丁寧に解説します。日々の仕訳や決算業務に役立つ「勘定科目の辞書」としてご活用ください。
社会福祉法人は、厚生労働省が定める「社会福祉法人会計基準」に従って会計処理を行う義務があります。一般企業が使用する企業会計基準とは異なり、社会福祉法人特有のルールや勘定科目が設定されています。
社会福祉法人会計基準で使用する勘定科目の一覧は、厚生労働省の通知「運用上の留意事項」の別添3として標準的なものが示されています。各法人はこの標準をベースに、自法人の経理規程の中に「勘定科目説明表」を定めて運用します。
保育園を運営する社会福祉法人では、子ども・子育て支援制度に関わる収入科目や、保育事業特有の支出科目を日常的に使うことになります。まずは勘定科目の基本構造を理解したうえで、保育園で頻出する科目を押さえていきましょう。
社会福祉法人会計基準の勘定科目は、大区分・中区分・小区分の3階層構造になっています。日々の仕訳では主に小区分を使い、決算書類では大区分や中区分で集計する仕組みです。
| 階層 | 役割 | 具体例(収入の場合) |
|---|---|---|
| 大区分 | 最も大きなくくり。決算書類の主要な区分となる | 事業活動による収入 |
| 中区分 | 大区分をさらに性質別に分類 | 保育事業収入 |
| 小区分 | 日常仕訳で使用する具体的な科目 | 委託費収入、補助金事業収入(公費)など |
この階層構造のおかげで、たとえば「保育事業全体の収入はいくらか」を中区分で確認しつつ、「そのうち委託費がいくら、補助金がいくら」を小区分で内訳を見る、といった分析ができます。
なお、法人の規模や事業内容によっては小区分をさらに細かく分けて管理することもあります(通称「小区分以下の区分」)。ただし、外部への報告書類では小区分までが標準です。
保育園の収入は大きく分けると、行政からの公的資金による収入と保護者等からの利用料収入の2種類があります。ここでは、保育園で特に使用頻度の高い収入科目を解説します。
認可保育所のメイン収入となる科目です。市町村が保育所に保育を委託し、その対価として毎月支払われるお金を計上します。根拠法令は子ども・子育て支援法附則第6条です。
金額は園児数や年齢区分、地域区分等によって決まります。処遇改善等加算の金額もこの委託費に含まれて入金されるため、科目上は処遇改善分だけを区別することができない点に注意が必要です。
なお、認定こども園の場合は「委託費収入」ではなく「施設型給付費収入」を使用します。この違いについては後述の「つまずきやすいポイント」で詳しく解説します。
行政から入金される各種補助金を計上する科目です。代表的なものに以下があります。
あくまで行政からの入金分をこの科目で処理するのがポイントです。同じ延長保育事業であっても、保護者から徴収する利用料は次に紹介する「補助金事業収入(一般)」に計上します。
補助金事業に関連して保護者から受け取る利用料を計上する科目です。延長保育の利用料や一時預かりの利用料などが該当します。
「(公費)」と「(一般)」の使い分けは、監査で指摘されやすいポイントの一つです。入金元が行政か保護者かによって正しく区分することが求められます。
保護者から直接受け取る実費徴収金を計上する科目です。文房具代、写真代、通園バス利用料など、補助金事業に該当しない実費分がここに入ります。
職員が園で給食を食べた場合に、職員から徴収する給食代を計上する科目です。園児の給食とは別管理になる点に注意しましょう。
| 勘定科目名 | 入金元 | 内容 |
|---|---|---|
| 委託費収入 | 市町村 | 認可保育所の運営費(処遇改善加算を含む) |
| 施設型給付費収入 | 市町村 | 認定こども園の運営費 |
| 補助金事業収入(公費) | 行政 | 延長保育・一時預かり等の補助金 |
| 補助金事業収入(一般) | 保護者 | 延長保育料等の利用者負担分 |
| 利用者等利用料収入(一般) | 保護者 | 実費徴収金(文具代・写真代等) |
| 利用者等外給食費収入 | 職員 | 職員給食の自己負担分 |
保育園の支出は、大きく人件費、事業費、事務費の3つに分けられます。支出科目は種類が多いため、保育園で特に使用頻度が高いものを中心に解説します。
常勤職員に支払う給与を計上します。非常勤のパート・アルバイト職員への給与は「非常勤職員給与支出」として別の科目で処理する点に注意してください。
派遣会社に支払う費用を計上します。一般的な企業会計では外注費(事業費や経費)に分類しますが、社会福祉法人会計基準では人件費に含めるのが特徴です。
健康保険や厚生年金などの社会保険料の法人負担分を計上します。処遇改善等加算によって給与が上がると、それに連動して法定福利費も増加するため、加算の計画を立てる際に考慮が必要な科目です。
園児の給食に使う食材費を計上します。園児数に対して食材費が適正な範囲かどうかは監査で確認されやすいポイントの一つです。
おもちゃ、絵本、画用紙、行事で使う飾りつけ用品など、保育活動に直接使用する消耗品を計上します。運動会やお遊戯会の準備費用もここに含まれます。
給食調理の外部委託費、清掃委託費、警備委託費など、外部業者への業務委託にかかる費用を計上します。
職員の研修参加費を計上する科目です。社会福祉法人会計基準では、研修参加にかかる旅費・交通費もこの科目に含めて処理するのが特徴です。一般的な企業会計とは処理が異なるので注意しましょう。
| 区分 | 勘定科目名 | 内容 |
|---|---|---|
| 人件費 | 職員給料支出 | 常勤職員への給与 |
| 人件費 | 非常勤職員給与支出 | パート・アルバイト職員への給与 |
| 人件費 | 派遣職員費支出 | 派遣会社への支払い |
| 人件費 | 法定福利費支出 | 社会保険料の法人負担分 |
| 事業費 | 給食費支出 | 園児の食材費 |
| 事業費 | 保育材料費支出 | おもちゃ・絵本・行事用品等 |
| 事務費 | 業務委託費支出 | 給食委託・清掃委託等 |
| 事務費 | 研修研究費支出 | 研修参加費+旅費 |
収入・支出科目ほど日常的に使うわけではありませんが、決算時に必ず処理が必要になる重要な資産・負債科目があります。特に初心者の方が見落としやすい4つの科目を解説します。
施設の建設や大規模修繕などで国・都道府県から施設整備補助金を受けた場合に計上する科目です。
この科目の特徴は、毎期、減価償却に対応する形で取り崩す処理が必要な点です。減価償却費を計上するのと連動して、国庫補助金等特別積立金取崩額を収益として計上します。この連動を忘れると決算数値が正しくならないため、注意が必要です。
土地や建物など基本財産の取得に充てた寄附金等を計上する科目です。企業会計でいう資本金に近い概念ですが、社会福祉法人では配当という仕組みがないため、位置づけが異なります。
翌期に支給する賞与のうち、当期に帰属する金額を見積もって計上します。たとえば、6月に夏季賞与を支給する場合、そのうち前年度の勤務に対応する部分を3月末の決算で引当計上します。
なお、金額が小さい場合は「重要性の原則」によって計上を省略できることもあります。
将来の退職金支払いに備えて計上する科目です。保育園の場合、福祉医療機構の退職共済制度に加入しているケースが多く、その場合は共済制度から支給される部分と法人独自の上乗せ部分を区分して処理する必要があります。
保育園の勘定科目で、経理初心者が特につまずきやすいポイントを整理します。
同じ「補助金事業収入」でも、行政から入金されるものは「(公費)」、保護者から入金されるものは「(一般)」に計上します。たとえば延長保育事業であれば、行政からの補助金は(公費)、保護者が支払う延長保育料は(一般)です。
この分類を誤ると、所轄庁の監査で指摘を受ける可能性が高いため、入金元を必ず確認したうえで仕訳しましょう。
どちらも市町村から入金される運営費ですが、認可保育所は「委託費収入」、認定こども園は「施設型給付費収入」を使います。自園がどちらの施設類型に該当するかを確認して、正しい科目を選択してください。
社会福祉法人会計基準には「一取引二仕訳」という特有の考え方があります。たとえば固定資産を取得した場合、通常の仕訳に加えて、資金収支計算書用の仕訳も同時に行うというものです。
一取引二仕訳の詳しい仕組みについては、以下のページで解説しています。
施設整備補助金を受けて取得した固定資産は、減価償却を行う際に国庫補助金等特別積立金の取崩しもセットで処理する必要があります。この連動を忘れると費用が過大に計上され、事業活動計算書の数値が実態と乖離してしまいます。
処遇改善等加算は委託費収入に含まれて入金されます。そのため、入金時点では委託費収入の中に含まれ、勘定科目上は区別できません。処遇改善加算の使途を管理するには、補助資料や台帳を別途作成して管理する方法が一般的です。
ここまで解説した勘定科目を正確に管理するには、会計システムの活用が有効です。会計システムを選ぶ際や運用する際に押さえておきたいポイントを紹介します。
社会福祉法人の会計処理には、企業会計とは異なる勘定科目体系や一取引二仕訳の仕組みが求められます。社会福祉法人会計基準に対応した会計システムを使用することで、標準的な勘定科目があらかじめ設定されており、科目の選択ミスを減らせます。
保育園を複数運営している法人や、保育園以外の事業も行っている法人では、拠点区分やサービス区分ごとの会計管理が必要です。会計システムが区分別の管理に対応しているかどうかは重要な確認ポイントです。
自治体独自の補助金や法人独自の管理項目がある場合、標準科目に加えて小区分以下の科目を追加する必要が生じます。科目の追加や並び替えが柔軟に行えるかも確認しておきましょう。
会計システムの導入形態(クラウド型かオンプレミス型か)について詳しく知りたい方は、以下のページも参考にしてください。
また、会計データの活用方法については以下のページで解説しています。
厚生労働省の通知「社会福祉法人会計基準の制定に伴う会計処理等に関する運用上の留意事項について」の別添3に標準的な勘定科目一覧が掲載されています。また、自法人の経理規程に定められた「勘定科目説明表」も確認しましょう。所轄庁のウェブサイトで参考様式が公開されていることもあります。
社会福祉法人会計基準では、原則として取得価額が10万円以上のものを固定資産として計上します。この基準を下回る場合は消耗品費等の支出科目で処理します。なお、固定資産の計上基準の不遵守は監査での指摘事例として報告されることがあるため、経理規程で定めた基準を確認しておくことをおすすめします。
「受託事業収入」は行政等から事業を委託されて対価を受け取る場合に使用し、「補助金事業収入」は法人が自ら実施する事業に対して補助金が交付される場合に使用します。両者は性質が異なりますが、実務上は混同して仕訳されるケースがあり、監査で指摘される事例も報告されています。契約内容や交付要綱を確認のうえ、正しい科目を選択しましょう。
社会福祉法人の勘定科目は、大区分・中区分・小区分の3階層構造になっており、保育園ではメイン収入の「委託費収入」をはじめ、補助金事業収入や給食費支出、保育材料費支出など保育事業特有の科目を日常的に使用します。
特に注意すべきポイントは以下のとおりです。
勘定科目の正しい理解と適切な管理は、日々の経理業務の効率化だけでなく、監査への適切な対応にもつながります。社会福祉法人会計基準に対応した会計システムを活用して、正確で効率的な会計管理を目指しましょう。
社会福祉法人の会計業務では、情報公開・法改正対応・区分管理など共通して求められる対応がありますが、注意すべきポイントは施設の種類によって異なります。保育・介護・障がい者施設では、それぞれ事業の仕組みや関わる行政・資金の流れが異なるためです。
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