社会福祉施設の職員処遇を支える「処遇改善等加算」は、令和7年度(2025年度)から大きく制度が変わりました。
これまで加算Ⅰ・Ⅱ・Ⅲの3種類に分かれていた仕組みが一本化され、新たな3区分に再編されています。
なお、企業主導型保育事業については1年遅れの令和8年度(2026年度)から適用開始となっています。
制度変更に伴い、給与規程の見直しや会計処理の変更が求められます。
本記事では、一本化の全体像から具体的な給与設計・会計処理の実務ポイントまでを整理して解説します。
これまでの処遇改善等加算は、加算Ⅰ・加算Ⅱ・加算Ⅲの3種類がそれぞれ独立した制度として運用されてきましたが、
申請書類や実績報告書もそれぞれ必要で、事務負担が大きいという課題が指摘されていました。
令和7年度からは、これらが廃止され新たな3区分に再編されています。以下の表で旧制度と新制度の対応関係を確認しましょう。
| 新制度の区分 | 内容 | 旧制度との対応 |
|---|---|---|
| 区分①(基礎分) | 施設の平均経験年数に応じた加算 | 旧加算Ⅰの基礎分に相当 |
| 区分②(賃金改善分) | 賃金改善に充当する加算 | 旧加算Ⅰの賃金改善要件分+旧加算Ⅲを統合 |
| 区分③(質の向上分) | 副主任保育士等の役職者への加算 | 旧加算Ⅱに相当 |
旧制度では3つの加算がそれぞれ異なる要件・計算方法で運用されていたため、どの加算がいくら入金されているのか把握しにくい面がありました。
新制度では区分の役割が明確化されたことで、加算額と使途の対応関係が整理しやすくなることが期待されています。
新制度で特に重要なのが、「2分の1以上ルール」です。
これは、区分②(賃金改善分)と区分③(質の向上分)の合計額のうち、2分の1以上を基本給または毎月決まって支給される手当で支給しなければならないというルールです。
区分②については残りの金額を賞与等で支給することも認められています。
ただし、区分③(質の向上分)については、基本給または毎月決まって支払われる手当でのみ支給が認められており、賞与・一時金での支給はできません。
副主任保育士等・職務分野別リーダー等に対して、役職手当や職務手当など職位・職責に応じた手当として支給する必要があります。
このルールに対応するためには、以下のような給与設計上の判断が求められます。
いずれの方法を選ぶ場合でも、給与規程・就業規則への反映が不可欠です。
処遇改善加算の支給方法(基本給に含めるのか、手当として支給するのか)を明確に記載し、職員へ周知しておくことが求められます。
新制度では、区分①の取得にキャリアパス要件の充足が必須となりました。
旧制度の加算Ⅰでもキャリアパス要件はありましたが、未達の場合は加算率が2%減算されるにとどまっていました。
新制度では要件を満たさない場合、区分①(基礎分)が全額不支給となるため、影響が大幅に拡大しています。
なお、令和7年度は経過措置として、キャリアパス要件に適合しない場合でも区分②の割合からキャリアパス要件分を減じる対応が認められています(令和8年度からは完全義務化)。
これらの要件を満たすためには、キャリアパスの策定だけでなく、それに連動した賃金テーブルの整備が重要になります。
区分①が不支給となった場合の財政的影響は大きいため、未整備の場合は早急な対応が求められます。
処遇改善等加算の会計処理は、入金時と支給時の2つの段階で整理するとわかりやすくなります。
処遇改善等加算は、委託費(または施設型給付費)に含まれた形で入金されます。
そのため、勘定科目上は通常の「委託費収入」として計上します。
加算分だけを別科目で受け入れるのではなく、委託費全体として処理する形が一般的です。
| 借方 | 貸方 | 摘要 |
|---|---|---|
| 預金 ○○円 | 委託費収入 ○○円 | ○月分委託費(処遇改善等加算含む) |
職員への支給時には、支給形態に応じた勘定科目を使用します。
| 支給形態 | 使用する勘定科目の例 |
|---|---|
| 常勤職員の給与として支給 | 職員給料支出 |
| 非常勤職員の給与として支給 | 非常勤職員給与支出 |
| 賞与として支給 | 職員賞与支出 |
| 法定福利費の事業主負担分 | 法定福利費支出 |
なお、法定福利費の事業主負担分(社会保険料・労働保険料の事業主負担分)も処遇改善の対象経費に含まれます。
賃金改善に伴って増加した法定福利費も加算額の使途として認められるため、実績報告の際には忘れずに計上しましょう。
旧制度では、加算Ⅰ・Ⅱ・Ⅲそれぞれの実績報告書を作成する必要があり、合計で9枚程度の書類が求められていました。
新制度では報告書が統合され、3枚程度に簡素化される見通しです。
書類の枚数は減りますが、実績報告の基本的な考え方は変わりません。
具体的には、以下の突合作業が引き続き必要となります。
新制度では、子ども・子育て支援法第58条第2項に基づき、経営情報の報告が法的義務として位置づけられています。
各施設は「ここdeサーチ」(子ども・子育て支援情報公表システム)を通じて、経営に関する情報をオンラインで報告する必要があります。
この報告を行わない場合、基本分単価の5%が減算されるペナルティが設けられています(令和7年度報告分が未報告の場合、令和8年7月請求分から適用)。
経営情報の報告と加算の実績報告は別の手続きとなるため、両方の期限と内容を確認しておくことが重要です。
処遇改善等加算の一本化に伴い、会計システム側でも対応が必要になるケースがあります。
以下のポイントを確認しておくとよいでしょう。
制度変更のタイミングでは、会計システムのアップデートや設定変更が必要になる場合もあります。
利用中のシステムが新制度に対応しているかどうか、早めにベンダーへ確認しておくことをおすすめします。
実績報告書は旧制度の9枚程度から3枚程度に簡素化される見通しであり、報告業務の負担軽減が見込まれます。
ただし、2分の1以上ルールの充足確認やキャリアパス要件への対応など、新たに求められる管理項目もあるため、制度内容を正確に把握したうえで業務フローを整備することが大切です。
どちらにも利点と留意点があります。
基本給に含める場合は職員にとって安定感がある一方、加算額が変動した際に基本給の改定が必要になります。
手当として支給する場合は柔軟に対応しやすい反面、就業規則への明記と職員への丁寧な説明が求められます。
施設の状況に合わせて、社会保険労務士等の専門家に相談しながら決定されることをおすすめします。
処遇改善等加算は委託費に含まれて入金されるため、勘定科目としては「委託費収入」で計上するのが一般的です。
ただし、実績報告では加算額と賃金改善費用の突合が必要となるため、補助簿や管理台帳で加算相当額を把握できる仕組みを整えておくと報告作業がスムーズになります。
令和7年度から施行された処遇改善等加算の一本化は、旧来の加算Ⅰ・Ⅱ・Ⅲを新たな3区分に再編する制度改正です。
実績報告書の簡素化など事務負担の軽減が期待される一方、2分の1以上ルールやキャリアパス要件の必須化、経営情報の報告義務化など、新たに対応すべき事項もあります。
特に、キャリアパス要件の未達による区分①全額不支給リスクや、経営情報未報告による5%減算ペナルティは施設運営に直結するため、早急な体制整備が求められます。
給与規程への反映、会計処理の整理、会計システムの設定確認など、不明な点がある場合は所管の自治体や専門家への確認を早めに行うことをおすすめします。
社会福祉法人の会計業務では、情報公開・法改正対応・区分管理など共通して求められる対応がありますが、注意すべきポイントは施設の種類によって異なります。保育・介護・障がい者施設では、それぞれ事業の仕組みや関わる行政・資金の流れが異なるためです。
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